「心理的安全性とは何?」
「心理的安全性が高い職場の作り方とは?」
「ぬるま湯組織との違いは?」
最近、「心理的安全性」という言葉を耳にすることが増えた社会人の方も多いのではないでしょうか。
特に、企業でマネジメントを担当しているような幹部の方ならば尚更でしょう。
しかし、具体的にどういったものなのか、どうすれば心理的安全性の高い職場を作れるのか、といったことがわからないというケースも珍しくありません。
そこでこの記事では、心理的安全性の意味や、心理的安全性の高い職場の作り方、ぬるま湯組織との違いなどについて詳しく解説していきます。
心理的安全性とは何か?
まずは、「心理的安全性」という言葉の意味や、なぜこういった考え方が広がっていったのかという点について解説していきます。
心理的安全性とは
心理的安全性とは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授によって提唱された考え方であり、「組織やチーム内において、安心して発言や行動ができる環境」のことを指します。
簡単に言えば、風通しの良い職場環境、という意味です。
旧態依然とした企業の場合、上司の決定について何か意見したり、効率の悪い業務の進め方に対して異を唱えたりすると、邪魔者扱いされてしまうことも多いです。
そのため、社員たちは委縮し、言いたいことがあっても吞み込んでしまい、心理的安全性の低い状態に陥ってしまいます。
こうした企業は、時代の変化についていけず業績が伸び悩む、といった問題に直面する可能性が高くなってしまいます。
逆に心理的安全性の高い企業は、イノベーションが起きやすく、柔軟に時代に対応しつつ業績アップしやすい傾向にあります。
心理的安全性という考え方が広まった理由
心理的安全性という考え方が広まるきっかけとなったのは、2012年にGoogleが行った「プロジェクト・アリストテレス」という調査です。
このプロジェクトでは、4年もの歳月をかけ、エンジニア職や営業職といった様々な職種のチームに対して「生産性が高いチームにはどのような特徴があるのか」についての調査が行われました。
その結果、高い成果を上げるチームの共通点として「心理的安全性が高い」ということが判明しました。
このプロジェクト・アリストテレスの結果が世界中の企業に広まったことで、心理的安全性の重要さを認識する企業が増えたのです。
心理的安全性が低いことで発生する4つの不安
心理的安全性が低い職場環境の場合、社員たちは以下のような4つの不安に悩まされることになります。
- 無知だと思われる不安
- 無能だと思われる不安
- 仕事の邪魔をしていると思われる不安
- ネガティブだと思われる不安
これらの不安によって、社員が伸び伸びと活動することができなくなり、成果も出せなくなっていくのです。
無知だと思われる不安
何かわからないことがあって質問したくても、「そんな簡単なことも知らないのか」と思われてしまうかもしれないという不安です。
例えば、会議中に理解できない内容があったとしても、心理的安全性が低い状況ですと「わかっていないのは自分だけかもしれない」・「みんなから心の中でバカにされるかもしれない」と不安になり、気軽に質問することができなくなってしまいます。
無能だと思われる不安
心理的安全性が低いと、仕事で何らかのミスをしてしまった時に、無能だと思われるのが怖くてなかなか言い出せないということがあります。
「こんなミスがバレたら仕事のできない人間だと思われるかもしれない」と不安になってしまうのです。
ミスの発覚を恐れて下手に隠蔽してしまい、それが原因で事態が悪化し、会社に大損害を与える、といったことも考えられます。
仕事の邪魔をしていると思われる不安
「上司からアドバイスが欲しい」
「同僚に少しだけ手を貸してほしい」
そんな考えが頭に浮かんでも、相手の仕事の邪魔になってしまうかもしれないと不安になり、行動に移せないということがあります。
これも、心理的安全性が低いせいで起こる現象です。
ネガティブだと思われる不安
プロジェクトの方針や業務の進め方などに違和感を覚えても、それを口にすることで「ネガティブな意見を言う奴だ」と思われてしまうのではないか、という不安です。
こういった不安を抱える社員が多いと、実際は有益な指摘であったにもかかわらず、萎縮してしまったことでその有益な指摘がなされることはなく、問題を抱えたままプロジェクトや業務が進んでしまう、というリスクが発生します。
心理的安全性を高めるメリット
心理的安全性を高めることで、職場や会社には以下のようなメリットが生まれます。
- イノベーションが起こりやすくなる
- パフォーマンス向上に繋がる
- エンゲージメントが上がる
- トラブルを未然に防げる
イノベーションが起こりやすくなる
職場の心理的安全性が高まることで、社員たちは、会議での発言や、上司・同僚への直接的な提言などがしやすくなっていくでしょう。
それらの発言や提言には、業務改善に繋がるものはもちろん、今まで誰も思いつかなかったような独創的なアイデアもあるはずです。
そういったアイデアを社内で積極的に採用することでイノベーションが起こり、時代を変えるような新サービスを生み出すきっかけになる可能性もあります。
パフォーマンス向上に繋がる
アドバイスが欲しくても、職場の雰囲気的に質問しづらい環境であれば、いつまでも成長できない状態で足踏みすることになる社員が増えてしまいます。
しかし、質問したいことを気兼ねなく質問できる環境であれば、社員も成長しやすくなるはずです。
成長の結果、社員たちの仕事のパフォーマンスも上がっていけば、自然と企業全体の業績にも良い影響を与える可能性が高くなります。
エンゲージメントが上がる
心理的安全性が高ければ高いほど、社員は居心地の良さを感じ、会社へのエンゲージメントも高まっていきます。
仕事へのモチベーションも上がるでしょうし、離職率も下がっていくでしょう。
人材の定着は企業にとって大変重要な課題ですが、心理的安全性が高ければ自然とこの課題もクリアできます。
また、風通しの良い会社だということが世間に広まれば、優秀な人材も集まりやすくなります。
愛社精神の強い社員が増えれば、それに比例して、ネット上に自社の良い部分について発信する人も増えてくるでしょう。
就職先企業を選ぶ際には、TwitterやGoogle口コミ、その他企業に対する口コミサイトなどで情報を集める人が多いので、必然的に就職・転職を希望する人も増加するはずです。
トラブルを未然に防げる
ミスは誰にでもあるものですが、心理的安全性の低い職場の場合はミスを周囲に報告することができず、不正行為をしてでもミスを隠そうとするケースがあります。
例えば、発注ミスをごまかすために不正会計をしたり、帳簿の操作をしたり、といった形です。
こういった行為により、後々重大なトラブルとなってしまうことも考えられます。
しかし心理的安全性が高ければ、何かミスをしてしまっても、同僚への相談や上司への報告をしやすいため、大きなトラブルに発展する前に対応できるというケースが増えるでしょう。
心理的安全性の作り方
ここまでの内容で、心理的安全性を高めることのメリットが伝わったかと思われます。
それでは、どのようなことをすれば心理的安全性を作っていけるのでしょうか。
この項目では、具体的な方法について紹介していきます。
質問・相談をしやすくする
まず大事になってくるのが、社員同士が活発にコミュニケーションできるような職場環境を作る、ということです。
同僚に対しては、ライバル心むき出しで敵対するのではなく、互いに協力し合える関係に。
上司に対しては、何かあればすぐに報告・連絡・相談ができるような関係に。
部下に対しては、変に委縮させず気軽に話しかけてもらえる関係に。
このように、コミュニケーションを取りやすい状況を作ることで、心理的な抵抗を感じずに質問や相談をできる環境が生まれます。
ただし、何でもかんでも質問すればいい、というわけではありません。
すぐに人に聞く癖がついてしまうのもよくありませんので、できる限り自己解決するという意識を共有することも必要でしょう。
相手を尊重する
同じ組織やチームのメンバーとして、互いが互いを尊重し合うということは大変重要です。
- 毎朝きちんと挨拶をする
- 相手の発言を軽視しない
- 感謝は言葉にして伝える
すべて基本的なことではありますが、その基本をしっかり行動に反映させるだけで、心理的安全性は大きく向上します。
具体的には、会議の場で、仮に価値が低いように思える意見を言った部下がいたとしても、本人としては真剣に考えての発言なのですから、軽くあしらうような態度を取ってはいけません。
真摯に受け止め、なぜそう思うのか、なぜそういう考えに至ったのか、といったことについて理解しようとする姿勢が重要となります。
また、同僚に仕事を手伝ってもらったり、部下に新たな仕事を依頼したりする時には、「仕事なのだから当然」といったような意識を持つことなく、しっかりと感謝の言葉を伝えるようにしましょう。
組織やチームがあるからこそ仕事ができているのだ、という意識を強く持ち、仲間たちの存在について日々感謝するようにすべきです。
飲み会やランチ会を実施する
仕事だけの付き合いでは、なかなか打ち解けることは難しい場合もあります。
そんな時に役立つのが、飲み会やランチ会の実施による交流です。
一旦仕事から離れ、食事やお酒を楽しみながら会話することで、互いをより深く理解し、絆が深まるということもあるでしょう。
「飲みニケーション」という言葉があるほど、お酒を介した付き合いによって関係性を深めることは一般的なことでもあります。
ただし、飲み会やランチ会へ強制的に参加させるような行為は厳禁です。
会社の集まりを嫌う社員もいますし、アルコールが飲めないので飲み会には行きたくないという場合もあります。
そういった人たちを無理やり参加させるようなことをすれば、逆に心理的安全性は低下してしまいますのでご注意ください。
失敗を恐れない環境を作る
ひたすら守りに入り、一切の挑戦をしないという企業は、衰退あるのみです。
したがって企業側としては、社員たちが失敗を恐れずに、あらゆる挑戦ができるような環境を用意しなければなりません。
そういった環境を用意するためには、社員一人一人にある程度の裁量権を与えたり、上司が自分の失敗談を部下に伝えたりして心理的安全性を高め、積極的にいろいろなアイデアを出し、実行できるようにする必要があります。
1 on 1(ワン オン ワン)ミーティングを実施する
1 on 1とは、上司と部下がマンツーマンでミーティングすることです。
1 on 1でのミーティングは、心理的安全性を重視しているGoogleをはじめ、多くの企業が取り入れています。
上司としては、普段ではなかなか聞けない部下の悩みや不満について把握することができますし、部下側も、上司の考えや知見に触れることができます。
1対1という状況だからこそ、互いが感じていることを素直に伝え合うことができるため、職場における課題を浮き彫りにし、その解決策を講じることができる貴重な場だと言えるでしょう。
またミーティングの場では、仕事に関する話だけでなく、時にはプライベートな相談や雑談も交えて、上司と部下の関係性を深める場としても活用されています。
評価制度を見直す
古い体質の企業の場合、部下の評価は上司が一方的に決める、というケースもまだまだ多いです。
しかしこの評価制度では、部下は上司に忖度し、言いたいことも言えず、ただ上司のご機嫌を取ることしかできません。
また、実際は成果を出しているのに、「あいつは妙に仕事ができるから脅威だ」「喋り方が気に食わない」といった上司の個人的な感情から、あえて低い評価をされてしまうということもあるでしょう。
こんなことが起これば、優秀な人材がいつまでもくすぶることになってしまうのですから、企業にとっては大きな損失です。
上記のようなリスクを避けるために、評価基準を明確にし、上司のさじ加減一つですべて決まってしまうような制度はなくすべきです。
その結果、職場の心理的安全性が高まり、部下たちも伸び伸び仕事ができるようになることでパフォーマンスも上がり、会社の業績アップに貢献してくれるはずです。
ピアボーナスの導入
ピアボーナスとは、会社からもらえるインセンティブではなく、社員同士で互いを評価し、ボーナスを贈り合うという制度のことです。
Googleが導入していることで有名となり、徐々に導入する企業が増えています。
なおGoogleの場合は、1回につき150ドルという、比較的高額な報酬が贈れるようになっています。
米ドルのため、日本円換算だと為替の影響で日々変わるのですが、2023年7月25日時点ですと約21,000円にもなります。
もし導入するとしても、ここまでの金額を設定することは難しいでしょうから、もっと少額でも充分でしょう。
大事なのは、「金額」よりも「気持ち」です。
ピアボーナスを通じて、社員同士で賞賛・承認し合うということが実現されれば、自然と心理的安全性も高まっていくはずです。
「心理的安全性が高い組織」と「ぬるま湯組織」の違い
「心理的安全性が高い組織っていうのは、つまりぬるま湯のようなゆるい職場のこと?」
こう勘違いされることも多い心理的安全性という概念ですが、ぬるま湯組織とはまったくの別物です。
ただ、注意しなければ心理的安全性を逸脱した「ただのぬるま湯な環境」になってしまう可能性もあるため、以下のような点に気を付けるようにしてください。
- 部下を注意できる上司がいるか
- 公私混同をしていないか
- 自由になりすぎていないか
- 社員同士が適度な距離感を保てているか
部下を注意できる上司がいるか
昨今、あらゆるハラスメントが問題になっており、特に職場においては「パワハラ」「モラハラ」が取り上げられます。
もちろん、これらのハラスメントは論外なのですが、過度に警戒しすぎて、部下を叱れなくなっている上司も多いようです。
しかし、叱るべき時はきちんと叱る、ということをしなければ、それは心理的安全性の範囲を超え、ただのぬるま湯組織になってしまいます。
例えば、部下が以下のような行動を取ったとします。
- 重要な会議があっても平気で遅刻する
- 期日までに仕事を終わらせない
- やたらと馴れ馴れしい
このような部下に対して一切注意をしなければ、「何をしても怒られないのだ」と思われてしまい、逆に生産性は落ちてしまうことでしょう。
リラックスした環境で仕事ができるようにすることは大事ですが、一定の緊張感を持たせることも忘れてはいけません。
ただし、叱ると言っても一方的に怒鳴ったりせず、相手の人格を尊重しつつ、「なぜそういうことをやってはいけないのか」を冷静に説明するようにしてください。
公私混同をしていないか
働きやすい職場作りは是非とも意識すべきですが、公私混同まで認めてしまうと、単なるぬるま湯組織になってしまいます。
- ランチの際に「一杯ぐらいなら」とビールを飲む
- 職場にペットを連れてくる
- 好意を持っている異性の部下だけに甘い態度を取る
こういった公私混同についてはある程度厳しい態度で接し、「あくまで仕事なのだ」ということを社員たちにしっかり意識してもらうようにしましょう。
自由になりすぎていないか
いくら「自由な社風」といっても、自由の度合いが過ぎると企業として成り立ちません。
例えば、納期が近く、チーム一丸となって仕事に取り組まないといけないような時に、平気で遊びのための有休を取る、といったことをするメンバーがいては、チーム内の不和を招く原因になりますし、他のメンバーたちの仕事へのモチベーションも大きく下がってしまうでしょう。
あくまで、TPOを弁えた範囲での自由を認めるようにすべきです。
社員同士が適度な距離感を保てているか
気軽にコミュニケーションが取り合える、風通しの良い職場環境を作ることは非常に重要ですが、部下や同僚や上司は「友達」とは違います。
あまりに距離が近すぎるのも問題でしょう。
部下が上司に対して敬語を使わなかったり、職場内での私語が多すぎたりすると、ぬるま湯な環境となり、逆に業績が下がってしまう可能性が出てきます。
厳しく立場を分ける必要はありませんが、最低限の上下関係や緊張感は必要です。
まとめ
以上、心理的安全性の作り方や、ぬるま湯組織との違いなどについて解説してきました。
会社として業績アップを目指すのであれば、心理的安全性の高い職場作りは欠かせません。
日本でもどんどん浸透している考え方ですので、大切な社員を守るためにも、会社の成長のためにも、是非意識してみてはいかがでしょうか。
なお、Web業界に関しては心理的安全性が高い職場が多いので、参考になるかもしれません。
ミスを厳しく詰めたり、上下関係がガチガチだったり、社員同士でコミュニケーションが取りづらかったりといったことはほとんどなく、風通しの良い職場が多いです。
モデルケースとしておすすめですので、心理的安全性に興味がある経営者や管理職の方は、Web業界の企業風土を是非ご確認ください。
- 心理的安全性とは、「社員たちが委縮せずに気持ちよく働ける職場を作る」という考え方のこと
- 心理的安全性の高い企業は業績が上がりやすい
- ただし、職場の作り方を間違えるとただのぬるま湯組織になるリスクがあるので注意
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